この記事では、IT業界の構造を解説します。
IT業界で(薄給激務などで)苦しんでいる人を何人も見てきましたが、それらの人に最初に必要なのは、IT業界の構造の理解だと思い執筆しています。
IT業界の構造を理解し、自分や相手がどのポジションにいるかが分かれば、キャリア形成の参考になり、社内外の付き合いでも人の役に立つ振る舞いが出来るようになります。
- 給料が少ない
- 良いキャリアを気付けている気がしない
- 希望する仕事が出来ていない
- フリーランスになったほうが良いの?
そんな不安や疑問を抱えている方に、考えの指針を示せる記事だと自負しています。
是非ともご覧ください。
目次
【前提】執筆者のえもんだ社長について
執筆者の「えもんだ社長」は、
- 30歳の頃に転職しネットワークエンジニアになる
- IT業界は8年程経験
- 派遣を経て現在は常駐型フリーランスとして就業
- 年収(年間売上)は1,000万円前後
の人物です。
ご興味がある方は自己紹介の記事をご覧ください。
また、ネットワークエンジニアが何かを詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
IT業界概観
IT業界は13兆9,302億円の産業規模を持つ巨大な業界です。
自動車産業の72兆円や建設業界の57兆円、不動産業界の45兆円よりは小さい業界です。
広告業界の6.9兆円や化粧品業界の2.8兆円、ライブ・エンターテイメントの0.6兆円よりは大きい業界です。
外部リンク:市場規模マップ
また、IT産業は誕生してから今日まで常に人材不足の業界です。
外部リンク:- IT 人材需給に関する調査 - 調査報告書 - 経済産業省
IT業界を俯瞰すると
- とても大きな売上が上がる
- 人材不足の売り手市場
だと分かります。
IT業界の各階層
IT業界は、担当している業務や責任範囲の違いから、階層分けが出来ます。
この記事では
- エンドユーザー
- 1次請け企業
- 2次請け企業
- 3次請け以降の企業
- ベンダー
- コンサルティング企業
に分けました。
それぞれがシステム開発上でどのような役割をしているのか、単価がいくらくらいなのかを解説します。
エンドユーザー
厳密に言うとIT業界の構造の外ではありますが、まずはエンドユーザーを解説します。
エンドユーザーは、最初にIT業務を必要とする企業や政府の組織です。
小売り、自動車、金融、ゲーム制作、食品、メディア、流通、、、等々の大規模なITシステムが必要な企業はすべてエンドユーザーになりえます。
我々エンジニアの業務(と給料)は、このエンドユーザーの要望からスタートします。
1次請け企業(SIer)
1次請け企業は、最初にエンドユーザーから発注を受ける企業です。
主にIT系の大企業(N社、F社、H社、I社など)か、大企業グループでシステム開発を担う子会社です。
1次請け企業は、大抵の場合ネットワークからサーバー、プログラムなどを含むシステム全体の開発・運用を引受け、エンドユーザーに納品します。
プログラムなどの1分野ではなく、エンドユーザーが直接利用できる状態のシステム(例:売上管理システム)を納品します。
このようなシステム全体を開発・運用する企業をSIer(エスアイアー)と呼びます。
1次請け企業は、システム全体の納品に責任を持ちます。
つまりは、納期や品質に責任を持ち、損害が発生した場合には損害賠償請求をされることもあります。
SIerは巨大なIT企業で、売上規模は数兆円にも上ります。
主な業務は、
- エンドユーザーの要望の整理(要件定義)
- 要件から開発するシステムの決定(基本設計)
- 開発のコストや期間などの洗い出し(開発計画)
- 案件の進捗管理
- IT機器を販売している企業(ベンダー)や協力会社(2次請けの会社)への発注
などです。
受注金額は、知っている限りでは
- 100~150万円前後/1人月
位が多い印象です。
また、エンジニアの工数の他に、機器調達や回線の料金、間接費なども管理し、一括してエンドユーザーへ請求するのが一般的です。
2次請け企業
2次請け企業は、1次請け企業(SIer)から発注を受ける企業です。
主に、スペシャリスト人材を多く抱える、一般的にはあまり名前の知られていないけれどもIT業界では名前の知られている会社(ネッ〇ワンシステムズ、協和〇クシオ、ユニ〇デックスなど)です。
SIerから発注される、ネットワーク、サーバー、プログラミングなどの個々の分野の業務を受注し、SIerに納品する企業です。
数百億円~数千億円の売上げ規模の会社が多いです。
主な業務は、
- 基本設計の手伝い
- 詳細設計
- テスト
- 実機の作業(コンフィグ投入、ラッキング、配線など)
などです。
一般的には、納品物に対して責任を持ちます。契約上、きちんと完成させて納品する義務があります。
しかし、客先に常駐し(いわゆる常駐型SES)、業務を請負うけれども納品はしないという場合もあります。
1次請け企業から協力会社やBP(ビジネスパートナー)と呼ばれることが多いです。
受注金額は
- 80~100万円前後/1人月
位をよく見ます。
3次請け以降の企業
3次請け以降の企業は、2次請け企業から発注を受ける3次請け企業や、3次請け企業から発注を受ける4次請け企業などです。
主な業務は
- IT人材の提供
- 中抜き
です。
1次請け、2次請けの企業ではIT人材が足りないケースはよくあります。
また、そこまでの技術力は必要とせず、とにかく手数がかかるような業務も良くあります。
そんな場合に、3次請け以降の企業が人材を提供します。
勤務場所は、1次請けや2次請けの現場(客先常駐)が多いです。
そして、よく中抜きをするのもこの階層の企業です。
3次請け以降の企業間で案件を回しあい、互いに中抜きして利益を確保する、ということも良く行われています。
※画像はイメージです
また、この企業群にも内部でランク付けがあるようで、3次請け4次請けが多い会社もあれば、5次請け以降でしか受注できない会社もあると聞きます。
なお、一般的には業務を請負うだけで納品物に対する責任などはありません。
売上げ規模は数億円から100億円程の規模の企業が多いです。
また、出来たばかりの企業も沢山あります。廃業も多いと思います。
知っている限りでは、上位請け企業の担当者とコネ(大学の友人、会社員時代の同期や先輩など)を持っている人が起業し、そのコネで売上を上げている、というケースが多いようです。
受注金額は
- 3次請けで60~80万円前後/1人月、以降は10%~20%中抜き
が一般的ではないでしょうか。
コンサルティング企業
コンサルティング企業は、1次請けや2次請けからコンサル業務を受注する企業です。
文字通りITに詳しい相談役で、主に1次請けの企業の要件定義や基本設計などの会議に出席したり、エンドユーザー向けの説明資料を作成したりします。
一般的に高給取りで、花形の仕事ではあります。
ただ、毛嫌いされることもよくある仕事ですw
単価は、
- 150~200万円前後/1人月
が相場と聞きます。
執筆者が実際に見たことがある数字では、240万円/1人月が最高です。
噂では、昨今流行りのDX人材であれば300万円/1人月なんて人も居るそうです。
ベンダー
ベンダーは、IT機器を販売している企業です。
主な業務は
- 機器やサービスの営業
- 仕様の説明
- 機器にバグが発生した場合の対応
- システム開発の手伝い
などです。
ベンダーは販売している機器に対して責任を持ちます。
販売の他、機器の知識を生かして、システム開発に携わることもあります。(その場合の単価は、従事している業務次第です)
ただ、本来は機器を販売しているベンダーですが、技術に関する知見の高さから半分SIerのような業務までやるベンダーも居ます。
ベンダーに業務を丸投げするいわゆる「ベンダー依存」な企業も珍しくありません。そんな場合は企業のIT業務をベンダーが肩代わりすることになります。
各階層一覧表
IT業界の各階層を表にすると以下の通りです。
階層 | 主な業務 | 受注額(月)の相場 |
エンドユーザー | ※該当なし | ※該当なし |
1次請け企業 (SIer) |
・要件定義などの上流工程 ・プロジェクトマネジメント |
100~150万円 |
2次請け企業 | ・詳細設計などの下流工程 ・実機の設定など |
80~100万円 |
3次請け以降の企業 | ・IT人材の提供 ・中抜き |
3次請けは60~80万円 以降10%~20%程度中抜き |
コンサルティング企業 | ・上流工程での相談役 | 150~200万円 |
ベンダー | ・機器の販売 ・顧客の要望や取引内容に応じて各工程を担当 |
担当工程による |
業務内容視点から担当階層を見ると以下の通りです。
業務 | 業務の説明 | 担当階層 |
要件定義 | エンドユーザーの要望を洗い出し、開発するシステムが備える機能を決定する。 | ・エンドユーザー ・1次請け ・ベンダー |
基本設計 | システム全体が備える機能を実現するために、どのようなコンポーネント(部品)を開発するかを決定する。 | ・1次請け ・2次請け ・コンサル ・ベンダー |
開発計画 | システム開発完了までの期間や予算、参画各企業の担当領域などを決定する。 | ・1次請け ・コンサル |
詳細設計 | システム全体の部品となる各コンポーネントを開発する。 | ・2次請け ・3次請け以降 ・ベンダー |
テスト | 開発した各コンポーネント及びコンポーネントを組み合わせた全体の、挙動やバグの有無を検証する。 | ・2次請け ・3次請け以降 ・ベンダー |
リリース作業 | 完成したシステムをエンドユーザーが利用する環境で稼働させる。 |
・1次請け |
ご覧いただくとわかると思いますが、IT業界内部でもかなり仕事内容は異なります。
合う合わない、やりたいやりたくないは人によってかなり異なります。
よって、単純に上流が一番良くて下流が一番悪いというものではないと思います。
自分に合う業務が何かを考えて、自分に合う階層を狙うことが大切です。
しかし当然ながら、常に5次請けしか受注出来ないような会社はあまりオススメできません。
正社員・派遣・常駐型フリーランス
続いて、正社員・派遣・常駐型フリーランスについても簡単に解説します。
正社員は、当然ながら上記のすべての階層に居ます。
当然、1次請けの正社員と5次請けの正社員では、業務内容も収入も全く異なります。
派遣は、3次請け以降以外のすべての階層に居ます。
というのも、3次請けの会社が派遣社員を雇い、1次・2次に客先常駐させるのは違法だからです。
世間一般では、派遣というと「単純作業だけに従事する人」というイメージがありますが、IT業界では全く違います。わたくしも散々色々やらされたので間違いないですw
上流でしか雇われない、ということもあり、一般に高スキルのIT派遣は給料が高めです。
常駐型フリーランスもすべての階層に居ます。
しかし、1次請けから受注するケースもあれば、3次請け以降から受注するケースもあります。
フリーランス(業務委託)は派遣と違い再委託が合法なので、中抜き再委託もままあります。
総論としては、IT業界では雇用形態よりもどの階層に所属しているか、ということの方がキャリアへの影響が大きいです。
そして、どの階層に所属するかは、本人のスキルによります。雇用形態はほとんど関係ありません。
悩みへの対策
ここまでお読みいただき、システム開発全体及び各階層が何をしているかが分かれば、キャリア形成や高収入に向けて有利に立ち回れると思います。
恐らくご自身が抱えている悩みへの対策も大体見えてくるのではないでしょうか?
- 給料が少ない → 単価の高い上流工程を目指しましょう
- 良いキャリアを気付けている気がしない → 今の会社がどの階層か、自身が築きたいキャリアはどの階層にあるのかを考えましょう。
- 希望する仕事が出来ていない → どの工程の仕事が自分に合っているかを考えて、合っている階層を目指しましょう。
- フリーランスになったほうが良いの?→ まずは仕事内容や給料など、どの要素を重視するかを考えてみて、ある程度まとまったらエージェントに相談しましょう。
このような感じで対策が見えると思います。
フリーランスエージェントに相談するなら、以下のエージェントがおすすめです。
TECH STOCK
相談は無料ですし、自分の市場価値が分かったり、キャリア形成の参考にもなりますので、興味があればお気軽に相談することをオススメします。
まとめ
以上を簡単にまとめると、
- IT業界は巨大な売り手市場
- 階層により業務も収入もかなり違ってくる
- 雇用形態(正社員など)よりも階層の方が重要
です。
もし、IT業界でなにか不満を抱えている人が居たら、上記をもとにしてキャリアの設計をしてみてください。
長期的にはかなりいい結果が期待できると思っています。
この記事がお読みのあなたのお役に立てれば幸いです。
それでは (*゚▽゚)ノ