この記事では、バランスシート(B/S, 貸借対照表)の読み方をストーリー仕立てで解説します。
バランスシートの本質について解説し、簿記の学習や会計の実務でのベースとなる見識が身に付く記事にしました。
- 簿記検定に合格したけどバランスシートの意味が分からない人
- 企業の決算情報から業績を読み取りたい人
- 法人設立を考えている人
これらの方向けの記事です。
是非ともご覧ください。
【本シリーズ】
前回のおさらい
前回、前々回で解説した通り、バランスシートが表しているのはコレです!
- 左側は資産目録
- 右上は返却が必要な方法で調達した資金
- 右下は返却が不要な方法で調達した資金
企業の活動により、「資産の総額」「資産調達方法(要返却)」「資産調達方法(返却不要)」の一部が変化します。
企業の活動とバランスシートの変化を見れば、バランスシート完全理解も難しくはありません。
この記事を第一回から繰り返し読んで、完全理解してしまいましょう!
バランスシートの変化をストーリーで解説
今回も架空の人物である衛門田さんの法人経営ストーリーからバランスシートの変化を解説します。
前々回の活動は、
- 資本金300万と借入金300万で配送事業を立ち上げ
- 現金100万円で配達用車両を購入
- 自身に給料(役員報酬)を20万支払い
- 配送業で150万円を売り上げる
でした。
前回の活動は、
- 借入金を100万円返済
- 2000万円を借り入れ新規公開株を購入
- 新規公開株が暴落し株の価値が2万円に減少、1998万円の営業外費用を計上し債務超過
- 配達業で2000万円を売り上げ債務超過を解消
でした。
この時点でのバランスシートは以下の通りです。
衛門田さんの大冒険の続きやいかに!
借入金の返済
衛門田さんは、株式投資でズッコケてから金融機関に返済をせっつかれていました。
超人的な活躍で現金を貯めていたので、会社には借入金2000万を全額返済できる現金があります。
衛門田さんは、これといった投資先もなかったので、株式購入のために借り入れた2000万円を全額返済しました。
返済完了時のバランスシートは以下の通りです。
- 現金:2530 → 530
- 借入金:2200 → 200
資産の部の現金と負債の部の借入金がそれぞれ2000万円減りました。
また、総資産も2000万円減りました。
従業員を雇う
衛門田さんは超人的な配達員です。安全に素早く大量の荷物を運ぶことができます。
毎日真面目に仕事に取り組んでいましたので、取引先の信用を得ることができ、「もっと沢山の配達を委託したい」とのお言葉をいただきました。
そこで、従業員を雇うこととしました。需要に合わせての事業拡大なので積極的にしました。
従業員は5人雇うことにしました。衛門田さんほどの超人ではないですが、屈強な配達員達です。
求人エージェントを利用したので、一人当たり60万円(5人で300万円)の費用が必要となりました。ちょっと高いですが、需要が拡大している時に人員を増やせないのは致命的な機会損失です。高額な費用を支払ってでも雇うことにしました。
求人エージェントにリクルート代300万円を支払った後のバランスシートは以下の通りです。
- 現金:530 → 230
- 繰越利益剰余金:132 → マイナス168
会社から出ていき資産として残らないリクルート代は費用です。費用が発生した場合は、繰越利益剰余金が減ります。
従業員用の配達用車両も必要です。100万円の配達用車両を5台買いました。
現金が少ないことを中古車販売業者に話したところ「頭金200万円を払ってもらえれば、残りは手数料なしの分割払いでもいい」というお話をいただきました。
日頃の業績が良かったので、評価してもらえたのでしょう。中古車屋さんに感謝し、頭金200万円、残りは月30万の10回払いで社用車を購入させてもらいました。
もともとある衛門田さんの車両と合わせて合計600万円(6台)になりました。
社用車購入の後のバランスシートは以下の通りです。
- 現金:230 → 30
- 車両運搬具:100 → 600
- 未払金:0 → 300
車両運搬具が100万円から600万円になりました。
また、頭金で支払った現金200万円が減っています。
購入代金のうち分割払いとなっている部分は、負債の部(返却が必要な方法で調達した資金)の未払金という項目になります。
現金枯渇
配達業は好調です。
衛門田さんは管理業務に専念して配達はしていませんが、従業員のみんなが初月に一人あたり70万円ほど売り上げてくれました。5人で売上350万円を上げました。
これだけあれば十分黒字に出来ます。
ただ、取引先からは「配達料は翌月払い」と言われていました。この時のバランスシートは以下の通りです。
- 売掛金:0 → 350
- 繰越利益剰余金:マイナス168 → 182
売上が上がったので繰越利益剰余金が350万円増えました(マイナス168→182)。
この時点では現金が振り込まれていませんので現金は増減しておらず、代わりに売掛金という科目が350万円増えました。
売掛金は、「いずれ現金としてもらえるはずの権利(債権)」ですので、資産目録の一つになります。
繰越利益剰余金が大幅に増えたので、黒字になりました!
そうこうしているうちに、給与の支払日がやってまいりました。
一人当たりの月給は25万としましたので、一人当たりの人件費は月30万円ほどです。
埋蔵金発見!
音楽が大好きな衛門田さんは、自宅に大量のレコードを持っていました。長年レコードを収集していた衛門田さんは、レコードがそこそこの金額で売れることを知っています。
チャック・ベリー、マイルス・デイビス、エルビス・プレスリー、、、大好きな昔のアメリカ人ミュージシャンのレコードは、中古で高値がつく名盤ばかりだったのです。
10年以上の愛蔵品を手放すのは寂しいですが、従業員への給与支払いには代えられません。
思い切って全て中古レコード屋さんに200万円で全て買い取ってもらい、現金200万円を個人の口座から会社の口座に入金しました。
この時点のバランスシートは以下の通りです。
- 現金:30 → 230
- 役員借入金:0 → 200
役員個人が法人にお金を貸したので、左側は現金が増えて、右側は役員借入金という科目が増えます。
会社に現金が入りましたので、従業員に給料を支払えます。給料(合計150万)を支払った後のバランスシートは以下の通りです。
- 現金:230 → 150
- 繰越利益剰余金:182 → 32
給料のように完全に会社から出ていくお金は費用計上となります。よって、繰越利益剰余金が減ります。
- 現金:80 → 430
- 売掛金:350 → 0
会社が倒産する時
そういった会社は、黒字で現金も大量にある会社ばかりです。でも、現に倒産してしまっています。理由は、事業が続けられなくなったからです。
極端な例ですが、現金がなくても業務を続けることができれば、倒産はしません。
現金なしでの業務継続というのはちょっと現実離れした話ですが、「家族経営の会社で、個人名義での生活費はある状態」などであれば、ありえないとも言い切れません。
しかし、自分で書いておいてアレですが、ほとんどのケースにおいて、事業を続けられなくなる理由は「現金がないから」です。