この記事では、バランスシート(B/S, 貸借対照表)の読み方をストーリー仕立てで解説します。
バランスシートの本質について解説し、簿記の学習や会計の実務でのベースとなる見識が身に付く記事にしました。
- 簿記検定に合格したけどバランスシートの意味が分からない人
- 企業の決算情報から業績を読み取りたい人
- 法人設立を考えている人
これらの方向けの記事です。
是非ともご覧ください。
【本シリーズ】
この記事では、バランスシート(B/S)の概念を理解するために、P/L(損益計算書)と仕訳については一切触れません。
迷宮に迷い込みやすいバランスシート(B/S)の概念を重点的に説明してあります。
バランスシート理解の要点
まずは以下の簡単なバランスシートをご覧ください。
資産の部、負債の部、純資産の部とあります。これがそれぞれ何を表すのか、端的に解説します。
資産・負債・純資産が何を表すかを知っていることがとてつもなく重要です!
簿記では左側を借方(Debit)、右側を貸方(Credit)と呼びます。
これは単純にそういう名前が付いているだけと解釈しましょう。
個人的に左側・右側と呼ぶことが多いので、この記事では左側・右側という言葉を使っていきます。
決して「借」「貸」の意味について深く考えてはいけません。迷宮に迷い込むことになります・・・。
左側(資産の部)
左側は資産の部と呼ばれます。これは単純に資産目録(持っている資産のリスト)を表します。
- 現預金
- 株式
- 不動産
- 一定額以上の備品(コンピュータ、オフィス家具等)
などです。
現預金、売掛金などの現金化しやすいものは流動資産と呼ばれ、不動資産や敷金などの現金化に時間がかかる物は固定資産と呼ばれます。
流動資産も固定資産も、左側(資産の部)にある「資産目録」です。
しつこいですが、貸借対照表の左側は資産目録です!
左側は資産目録
右側(負債の部、純資産の部)
続いて右側の負債の部と資産の部ですが、右側が表すものは資産の調達方法です。左側に記載の資産の調達方法(どういう方法で調達したか)、を表しています。
左側の資産目録にある資産を得るために、右側の方法で資金を調達したのです。当然、左右で全く同じ金額になります。
右側の上部にある負債の部は(資産の調達方法のうち)返却しなければならない額を表します。
借入金の他、買掛金や預り金も返却しなければならない調達方法として扱い、負債の部に入れます。
右側の下部にある純資産の部は(資産の調達方法のうち)返却する必要がない額を表します。
資本金(最初に出資者から集めたお金)や、内部留保(これまでの黒字の累積〔=繰越利益剰余金〕など)を純資産の部に入れます。
現在、会社にある資産の調達方法は、
(負債の部)借入金や買掛金や預かり金 ○○円 と
(純資産の部)資本金や内部留保 ○○円
である。
ということです。
しつこいですが、貸借対照表の右側は資産の調達方法です!
右側は資産の調達方法
純資産の部について図で整理します。
よく見るのは、最初に出資されたお金である資本金と、会社の黒字の積み上げである繰越利益剰余金です。
その他、資本準備金などの項目もありますが、この記事では扱いません。
バランスシートの変化をストーリーで解説
文章だけでの理解は大変なので、ある架空の人物が会社を設立し経営していくストーリーと共に、バランスシートの変化を解説します。
登場する架空の人物は、配達業者勤務から独立し会社を設立した衛門田さん(仮名)です。
衛門田さんは、働いていた配達会社の待遇が悪いので、思い切って脱サラしました。
得意の運転技術と持ち前の筋肉、さらにこれまで培ってきた配達業のノウハウを生かし、独立して配達請負事業を行うことにしました。
※えもんだ社長とはなんの関係もない架空の人物です。資本金や借入金の額、事業内容なども全然違います。
法人立ち上げ当初
法人設立に際し、会社員時代に貯めた現金300万円を資本金としました。
300万円だけでは心もとないので、金融機関から会社名義で300万円を借り入れ事業を開始しました。
この時点でのバランスシートは以下の通りです。
資本金と借入金を合わせて600万円の現金があります。
他の資産はありませんので、左側(資産目録)は現金600万円のみです。
右側(資産調達方法)は返す必要のある負債が借入金300万円で、返す必要のない純資産が資本金300万円です。
法人を立ち上げたばかりなので、繰越利益剰余金は0円です。
社用車購入
配達事業を行うので、社用車が必要です。
見栄えのする車は必要ないので、100万円で中古のバンを購入しました。(手数料は発生しなかったものとします)
この時点での貸借対照表はこのようになります。
社用車購入により変化したのは、左側の資産目録だけです。
- 現金:600 → 500
- 車両運搬具:0 → 100
社用車を購入しても資産目録が変わるだけです。資産の調達方法には全く変化はありません。
資産を購入しても資産目録が変わるだけ。
役員報酬の支払い
会社の役員(社長も含む)も、従業員と同じように毎月給料をもらいます。
社会保険料や税金の天引きは、普通の会社員と変わりません。
いくつか違う点もあります。たとえば、金額は1年分をあらかじめ株主総会などで決定し、税務署に届け出る必要があります。
そして、雇用保険は加入できませんので、雇用保険料の天引きもありません。
衛門田さんも例外ではなく、会社から衛門田さんへ給料(役員報酬)を支払います。
役員報酬の額は、月額20万円としました。(高く設定すると、社会保険料なども高くなるので、まずは安めにしておいた方がいいです)
実際には天引きした社会保険料や所得税や住民税がありますが、ここでは話を簡略化するために20万を全て支払ったことにします。
この時点の貸借対照表はこのようになります。
- 現金:500 → 480
- 繰越利益剰余金:0 → マイナス20
役員報酬を支払った分、左側の現金20万円が減っています。
減った左側の項目(資産目録)に対応する右側の項目(資産の調達方法)は、純資産の部にある繰越利益剰余金です。
社用車購入と違い、給料の支払いは経費の計上です(資産の購入ではありません)。
経費を支払った時には、右下の純資産の部(資金調達方法のうち返却不要な部分)が減ります。
経費が発生しても右上の負債の部(資金調達方法のうち返却が必要な部分)は全く変化しません。
経費を支払うと純資産の部が減る
会社に勤務していると、経費の削減という話題を聞くことも多いと思います。
これは、経費を削減すると会社の利益が増えるからです。
しかし、自社が支払う経費は誰か(従業員、ガソリンスタンド、文房具屋さんなど)の利益です。
つまり、自社の経費の削減は誰かの利益の削減になってしまうのです。
経費削減も大事ですが、取引先のことも考えて売上を伸ばすことをより大事にしたいところです。
売上計上
衛門田さんは、持ち前の筋肉とドライビングテクニックを生かし、人一倍配達に勤しみました。
配達量が凄まじいため、一人で月150万円の売上を上げて現金で受け取りました。
その時点のバランスシートは以下の通りです。
- 現金:480 → 630
- 繰越利益剰余金:マイナス20 → 130
まず、現金で受け取ったので現金が150万円増えています。
また、先ほどマイナス20だった繰越利益剰余金が+130に増えました。
売上により増えるのは、右側(資金調達方法)のうち純資産の部(返却不要な部分)です。
冷静に考えるとわかりますが、売上が発生しても負債(返却が必要な部分)は全く変化しません。
まとめと参考図書
この記事の要点は、
- 左側は資産目録を表している
- 右側は資産の調達方法を表している
- 資産の調達方法には、返却が必要な部分と返却が不要な部分がある
です。
執筆者えもんだ社長の個人的意見ですが、簿記でもっとも重要なのはバランスシートの概念だと思います。
それなのに、過去にやった簿記三級の学習では(10年以上前の記憶をたどった限りでは)バランスシートの概念についての説明はほとんどありませんでした。
仕訳の方法や決算書の項目の埋め方を重点的に学習させられた記憶があります。
この記事で述べた簿記の概念は、この本で理解しました。
リンク
会計のエッセンスについて重点的に記載してある良書です。
会計について興味があれば、是非ともお読みください。
次回は、借入金返済、債務超過や、内部留保、黒字倒産について書こうと思います。
それでは!(*゚▽゚)ノ