この記事では、自動運転を切り口にして、AI(人工知能)に仕事がとられるという話が誇張であることを記載します。
昨今、AIによって単純労働がなくなる、などという話を聞くことがあります。
しかし、えもんだ社長はそんなことは不可能だと思っております。
「AIに自分の仕事がとられるのでは?」と不安になっている皆さん、過度なご心配は不要です。
以下、詳細を解説いたします。
是非ともご覧ください。
目次
自動運転の定義について
自動運転についての記事をネットで読んだり動画で見たりすると、いつも微妙な気持ちになります。
「レベル3実現へ」などという言葉をよく聞きますが、正直なところ「だからどうしたの?」と思うことが少なくありません。
それもこれも、自動運転の定義がおかしいことが根本原因だと思います。
まずは定義を考察します。
自動運転の定義(一般人向け)
わたくしが思う自動運転というのは、
免許を持っていない子供でも目の不自由な方でも誰でも、車に乗り込んで目的地を入力するだけで、搭乗者による作業(運転など)を一切必要とせず、自動的に目的地に到着する。
です。
おそらく、ほとんどの人がそのように思っているのではないでしょうか?
これがまさしく自動運転です。異論はないはずです。
自動運転の定義(お役所、研究者向け)
2021年7月時点のWikipedia記事の記載によると、日本政府や米国運輸省道路交通安全局の定義はこうです。
- レベル0
- レベル1(運転支援)
- レベル2(部分自動運転)
- レベル3(条件付自動運転)
- レベル4(高度自動運転)
- レベル5(完全自動運転)
※長くなるので、見出しだけ引用しました。詳細にご興味あれば、Wikipediaの自動運転の定義の項目をご覧ください。
現在は「年内(2021年)にレベル3が実現できるか?」という段階のようです。
「年内に」ってなんだか毎年聞いてるような気もします・・・。
そもそも、レベル3の条件付自動運転って何の意味があるんでしょうか?w
「条件付き自動洗濯機能」がついている洗濯機って用途が相当限定されると思います。
製品が完成するまでには様々なステップが必要だ、というのはよくわかります。
しかし、わたくしの感覚で言えば条件付自動運転は開発中の商品です。
「条件付」と銘打ってある段階の商品を大々的に発売するのは、自動運転以外ではあまり聞いたことはありません。
勝手に基準を作ってハードルを下げる
結局、わたくしが自動運転に関する話をあまり好きになれない理由は、勝手に基準を作ってハードルを下げてるように聞こえるからです。
自動運転は5年以内に実現できる!
→(3年後)自動運転は5年以内に実用化できる!!
→(更に3年後)自動運転には段階があり、現在はレベル2を達成した。レベル3の自動運転は年内に実現できる!!!
→(更に翌年)レベル3の自動運転の実現は年内目安!!!!
→(更に翌年)自動運転レベル3に向けて実地でのテストが開始された!!!!!
→以降毎年ループ
年代別に各開発者の主張を正確に調べたわけではありませんが、大体のイメージではこんな感じです。
結局、いつ実現するのでしょうか?
また、レベル分けはどのタイミングで何の必要があって出てきたんでしょうか?
どうも、「当初の予定を達成できそうにないから、レベル分けなどの基準を出してごまかした」というように見えます。
技術的な困難さ
自動運転技術については、確かに第3次AIブーム(2006年から現在、後述)により進歩はしています。
自動運転のためには特に画像処理能力が大切で、コンピュータの画像処理能力は第3次AIブームを引き起こしたディープラーニングという手法によって飛躍的に向上しました。
しかし、それでも現在のコンピュータの画像処理能力は人間には到底及びません。
特に多数対多数の画像処理能力は、最新のコンピュータでもかなり苦手だと聞きます。
画像認証処理を以下の3パターンに分けて解説します。
- 1対1
- 1対多数
- 多数対多数
1対1:カメラに映った1人と登録された1人のデータを比較
カメラに映った1人の映像とデータベースから抽出した1人の画像を比べて、OKかNGかだけを判定します。
ディープラーニングの研究が進む前はこのレベルの画像認証も難しかったそうですが、現在はそこまで大きな負荷をかけずに実装できます。
2017年発売のiPhone Xに実装された画像認証ログインなどで行われている処理です。
しかし、2021年現在でも、似た顔の人を間違えてOKと判定してしまうとか、お面でもOK判定されてしまう、という話を聞きます。
1対多数:カメラに映った一人と登録された複数人のデータを比較
カメラに映った1人の映像と、データベースに登録されている複数人のデータを比べて、誰かを判定します。
NECが開発し、今年(2021年)丸紅の新本社に導入された、社員の顔認証入退場システムなど実現できているそうです。
1対多数の認証については、簡単に検索した限りではこの丸紅の記事以外は見つかりませんでした。
実のところ、わたくしはこの技術については少々疑っています。
記事内では「丸紅グループ約4,000名の従業員を対象に稼働しています」と記載がありますが、冷静に考えてカメラに映った1人と4,000人の顔データを比較して、1人に絞るのはとても難しいと思います。
4,000人の中には、当然似たような顔の人もいるはずです。
そして、カメラに映った人間の顔は、むくんでいる日もあれば、しかめっ面の時もあるはずです。
それらの困難を乗り越えて1人に絞る・・・。現在のコンピュータで実現可能とは、ちょっと信じがたいです。
もし、丸紅社員の方などで、詳細を知っている人が居たら是非ともお教えください。
多数対多数:カメラに写っている複数の人や物とデータベース内の情報を比較
カメラに映っている複数の人や物とデータベース内の情報を比較し、視界に入っている映像から何が存在しているかを判断する。
当然ながら、自動運転ではこの多数対多数の映像処理が必要です。
しかし、現在のコンピュータではこれを運転中にリアルタイムに処理することができないそうです。
1対1の認証でも、親子や写真が貼ってあるお面を見分けられずに同一人物扱いするくらいです・・・。
多数対多数の認証は夢物語のように思えてしまいます。
ご存じの通り、足し算・引き算・掛け算・割り算などは、計算の速い人間よりそこらのコンピュータの方が圧倒的に早いです。
しかし、画像処理においては、最高のコンピュータもそこらのおばちゃんに全くかないませんw
これは、おそらく現在のコンピュータ(ノイマン式コンピュータ)の構造的な得手不得手です。
この記事のタイトルで「実現しない」と断言したのは、この構造的な不得手は解決しようがない、と思っているからです。
AIブームの歴史
ここで、AIブームの歴史についてたどってみたいと思います。
この歴史を知った時が、わたくしが「AI」が眉唾ものだと最初に思った時かもしれません。
第1次AIブーム_1956年-1974年
ダートマス会議という会議で、当時のとても頭のいい人たちが、人間の問題解決能力を模するコンピュータを人工知能(Artificial Intelligence, AI)と名付けたことから、第1次AIブームが始まったそうです。
この当時から
- 20年以内に人間ができることは何でも機械で出来るようになるだろう
- 3年から8年の間に、平均的な人間の一般的知能を備えた機械が登場するだろう
などという昨今でもよく聞く話がされていたそうですw
もちろん、そのようなコンピュータは登場しませんでした。
第1次AIブームで、コンピュータはプログラムした動作しかできないが、現実世界で起こりうる事象は無限に存在する、という問題を発見することになりました。
人間は日常であらゆる情報(楽しそうな話声、怒号、雨音、曇り空、遠くで走っている馬、食べ物の匂い、化学薬品の臭い)を知覚していますが、それぞれの情報を考慮すべきか考慮すべきでないかという判断をほとんど無意識のうちに一瞬でこなしています。
この考慮すべきか否かの判断をコンピュータにプログラムすることが不可能だったのです。
これをフレーム問題といいます。知覚した情報を考慮が必要な枠(フレーム)に入れるか入れないかをプログラム出来なかったため、こう呼ばれます。
その後この問題を解決できず、結局は、
AIでは「トイ・プロブレム(おもちゃの問題)」しか解けない
と評され第1次AIブームは終了しました。
第2次AIブーム_1980年-1987年
第2次AIブームでは、エキスパートシステムという、医者や弁護士のように特定領域の知識について質問に答えたり問題を取りたりするプログラムが研究されました。
専門的な問題のみを扱うことにより、常識を身に付けられないという問題を回避し実用的なシステムを作りだす、という考えだったそうです。
例えば医療では、「おなかが痛い」「頭が痛い」を考慮することは簡単にプログラムできます。
しかし、「この地域の水道を使っている人に同じ傾向が出る」「最近この食材を食べた人が体調不良を訴える」「火山の噴火でガスが発生して健康被害をもたらした」などといった、まれにしか起こらない事柄をすべてプログラムすることは不可能です。
その他、「なんとなくだるい」「いつもよりも眠い」「嫌なことがあった」などの症状を、どれくらい考慮して診断に結び付ければいいのか、プログラムすることが難しいという問題もありました。
この時もフレーム問題が障害になりました。
やはり、曖昧に発生し曖昧に申告される不定愁訴のような症状を、具体的な解決策に落とし込むことは不可能でした。
ちなみに、AIの研究とフレーム問題への取り組みによって、「人間はどのようなメカニズムで物事を認識・解決するのか?」という考えへの研究も進み、心理学や哲学の発展に役立ちました。
フレーム問題は解決できていませんが、人間の考えや行動への考察に新たな視点をもたらした、という功績はありました。
ともあれ、コンピュータには「あいまいな判断」ができないために、エキスパートシステムは特定のごく狭い領域でしか利用できないことがわかり、第2次AIブームは廃れていったそうです。
一見すると人間の弱点とも思えるあいまいな判断ができないことがネックとなるなんて、不思議なモノです。
第3次AIブーム_2006年-現在
そして、現在のAIブームが第3次です。
これはディープラーニングにより、コンピュータの「判断力」を人手を(あまり)介さずに強化できるという、大きなブレイクスルーがあったためです。
これにより、コンピュータの自然言語処理、音声認識、画像認識などの能力は、飛躍的な進歩を遂げました。
現に、現在の機械翻訳の性能はかなり高いです。
しかし、
- 自動運転
- 汎用AI(ある特定の機能ではなく、人間のように自立思考できるようなAI)
- シンギュラリティ(人工知能が人間の知能を超える)
などは、このブレイクスルーをもってしても実現することは夢物語です。
上述のように、多数対多数の画像処理は現在のコンピュータの性能向上で対処できるとは思えません。
汎用AIは不可能です。ある程度あいまいでそれっぽい回答を出すことは出来ても、自立思考には程遠いです。
自動運転すら覚束ないのにシンギュラリティなんて夢のまた夢です。
不思議なことに、これらの技術は到底実現できなさそうなのになぜか大々的に喧伝されることがあります。
ちなみに、汎用AIでネット検索すると、「強いAI」「弱いAI」という言葉がヒットします。
これも自動運転のレベル分けのように、勝手に基準を作ってハードルを下げているように見えます。
まとめと感想
端的に結論を書くと、
- 自動運転は実現しない
- AIについての過度な期待も恐れも不要
- IT業界では出来もしないことを出来ると断言する人が結構いる
です。
数年前には「人間の仕事がなくなる」「我々は失業する」などという不安をあおるような言説がはびこっていたように記憶しています。
その不安感があり知識をかき集めた結果、AIへの過度な恐怖は不要という決断に至り、この記事を執筆していますw
一番気をつけたいのは、なんとなくのイメージに振り回されて行動を誤ることです。
情報をキャッチした際に、なるべく正確な判断で情報に振り回されずに、自分の人生を豊かにしていきたいと思っています。
この記事が皆さんの幸福の一助になれば幸いです。
それでは (*゚▽゚)ノ