この記事では、派遣業の還元率と、派遣業界を改善していくための方法を記載します。
先日、ツイッターで以下のリプライをしたところ、多くの反響をいただきました。
その法律のお陰で、労働者は派遣先を転々するハメになり、技術を身に付けるのが難しく、派遣業者が儲かる仕組みだと思います😠
— えもんだ社長@エンジニア9年目 (@EmondaLater30s) February 23, 2022
その後、少々ツイッターで議論が有りました。
そこで、3年ルールだけでなく、派遣業全体を分析し、建設的な提案をするためにこの記事を書きました。
「ピンハネが悪い」「派遣社員をやっている奴の自業自得」「正社員で雇わない企業が悪い」などの感情論ではなく、現状の分析から、派遣労働者・派遣会社・派遣先の三方にとってプラスになるような施策を考えたつもりです。
是非ともお読みください (๑╹ω╹๑ )
派遣業とは
まずは派遣業について説明します。
派遣業とは、
人材を必要とする企業(以下、派遣先)
に
仕事を探している人材(以下、派遣労働者)
を派遣する事業です。
一般的には、
- 特定の業務をする従業員を雇いたい。しかし、定年まで共に事業を行っていくほどの熱意までは求めていない。(派遣先)
- 正社員のように、会社に滅私奉公するほどの時間とエネルギーは確保できない。しかし、特定業務に従事して対価を貰いたい。(派遣労働者)
という両者をマッチングさせるような事業です。
派遣会社の特徴を箇条書きすると以下の通りです。
- 「派遣先から支払われる派遣料金」と「派遣労働者の人件費」の差分が利益(粗利)になる。
- 上記の金額は、派遣している期間中、時間給で計算される。(1人紹介していくら、という訳ではない)
- 派遣社員を雇用し、雇用保険や源泉徴収など派遣労働者の行政手続きを全て行う。
- 派遣業を行うには、厚生労働大臣から派遣事業許可許可を得る必要がある。(保有資産額、営業所面積、派遣元責任者などの条件あり)
- 派遣労働者は派遣先から指揮命令を受ける。
- 2重派遣は禁止。
- 同一派遣先に3年以上勤務することは出来ない。勤務を続けるためには、雇用形態を正社員・契約社員などに切り替える必要がある。(3年ルール)
派遣会社が世の中に提供している付加価値は、
- 派遣先への労働力の提供。(人材の募集や教育、労務管理などを含めた総合的な人材の供給)
- 派遣労働者への派遣先の紹介。(派遣先と折衝、担当業務の明確化などをし、仕事を提供する)
の2点だと思います。
派遣業界の還元率
続いて、派遣業界の還元率を解説します。
派遣会社の利益(粗利)は、当然
- [派遣先からもらう派遣料金] - [派遣労働者に支払う人件費] = [派遣会社の粗利]
です。
しかし、事実派遣会社は労働者に支払う人件費以外にも、社会保険料の会社負担分などの人件費も負担しています。
よって、この記事では
- 派遣労働者への支給額から見た数値を名目還元率
- 派遣労働者の人件費全体から見た数値を実質還元率
として、より厳密に解説しようと思います。
ピンハネという言葉があります。
これはポルトガル語の「ピン(数字の1)」と「ハネ(人の取り分をかすめ取る)」という言葉が合わさって出来た言葉だそうです。
江戸時代からある言葉で、当時裏家業であった仲介業者(口入れ屋、手配師)が労働者の給料の1割を受領したため、その様に言われていたそうです。
後述しますが、現在の派遣業者は1割以上を受領しています。
そのため、この記事では「ピンハネ」という言葉は使わず「粗利率」と「還元率」という表現を用いることにしました。
名目還元率 : 64.5%
まずは、名目還元率です。
厚生労働省の発表しているデータから簡単にわかります。
参考サイト:厚生労働省- 令和元年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)
こちらの
- 派遣料金(8時間換算)(平均):23,629円
- 派遣労働者の賃金(8時間換算)(平均):15,234円
というデータから、名目還元率は64.5%(粗利率 35.5%)となります。
実質還元率 : 82.0%
派遣労働者の賃金の他に、派遣会社が負担する料金があります。
この記事では、
- 健康保険料:賃金の4.9%
- 厚生年金保険料:賃金の9.15%
- 雇用保険料:賃金の0.6%
- 有給休暇:賃金の2.5%(年240日勤務のうち6日を有給)
- 消費税:賃金の10.0%(概算)
- 40歳以上が対象の介護保険料は考慮しない
- 会社が提供する退職金や福利厚生費は考慮しない
を会社負担分とします。
上記を全部足した27.15%を賃金に上乗せして計算します。
- 派遣料金(8時間換算)(平均):23,629円
- 派遣労働者の賃金(8時間換算)(平均):15,234円
- 派遣会社が負担する人件費:4,136円(15,234円 × 27.15% = 約4,136円)
- 派遣会社の合計負担額:19,370円
となりますので、実質還元率は82.0%(粗利率 18.0%)です。
この18.0%から、派遣会社の営業の給料、オフィス代、各種備品などの他、社長の給料、法人税、株主への配当も支払われることになります。
所感
ちょっと雑記気味になってしまいますが、所感を述べます。
派遣元は月給20万円(手取りではない)の人を雇うのに、平均で24万3902円を払っていることになります。
会社経営は何かとお金が必要になるので、ある程度の粗利は確保する必要はあります。
IT業は製造業などに比べて人件費率が高い事業ですが、それでも正社員の人件費は売上の50%程度であることを考えると、そこまで無茶な粗利率ではないかとも思えます。
しかし、正社員は不景気時でも雇い続けなければならない、という条件がありますが、派遣労働者は雇い続けなくても問題ありません。
派遣労働者は通常3ヶ月毎の労働契約を結びますが、派遣業においては不景気の時などに契約更新をしないこと(雇止め)が合法なのです。
「従業員の雇用の確保」という社会的責任を一部しか担えていない事業、という面があると思います。
派遣の3年ルールは、上記の従業員の雇用の確保という責任を制限してしまう法律だと思います。
3年というと、会社のルールを熟知する頃で、業務も板についてきて顔見知りも多くなり、中心メンバーとして活躍しだす時期です。
雇用の確保という視点でも、人材の活用という視点でも、3年ルールは撤廃した方がよい悪法だと思います。
ちなみに、わたくしが見てきた限りでは派遣会社の営業は結構大変そうな業務をしています。
派遣社員も派遣先も、割とわがままを言う人が多い印象です。双方の希望の折衝に骨を折らされている営業をたくさん見てきました。
派遣会社の経営者の事情までは分かりませんが、営業に関していえば、結構な重労働だと思います。
また、実質還元率:82.0%は平均値です。90%というケースもあれば、70%というケースもあると思います。
口コミですが、「派遣の事務員の見積もりを取ったら、1時間当たりの派遣料3,000円を提示された」という話を聞いたこともあります。
改善案
以上より、以下の改善を提案します。
- 派遣会社は、すべての契約において、派遣先・派遣労働者の双方に、派遣料金と実質還元率を公開するよう法律で義務付ける。
- 派遣の3年ルールを撤廃し、派遣先・派遣労働者双方の希望が合致すれば何年でも働けるようにする。
これらにより、現在の不透明感のある派遣業界は大きく改善すると確信しています。
感想
記事にしてみてわかりましたが、派遣会社の粗利率は、そこまで酷いモノではない様ではあります。
わたくしの実体験を考えても、ある程度妥当性のある数字だとも思いました。
しかし、(少なくともわたくしの周りでは)派遣会社が何かと悪者扱いされ毛嫌いされているのも事実です。
この悪評は、全案件で還元率を公開する、ということで大分改善できると思います。
派遣会社も社会に貢献している部分は大いにあります。世間体をより良くするためにも情報を公開することを提案します。
この記事が、お読みの皆様の参考になれば幸いです。
それでは (*゚▽゚)ノ
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